糖質オフの話をすると必ず出てくる反論が昔の人は今以上に穀物ばかり食べていたはずのに太ってなかったし糖尿病でもなかったんじゃ? 昭和の時代になっても飢饉はあったわけで、糖尿病になれるほどたらふく食べられる人があまりいなかっただけのこと? それに昔の人はよく動いた?
A井先生に藤原定家は糖尿病だったと教えていただく。大昔から糖質たっぷりの日本人らしい食事をたらふく食べることができた特権階級の一部には糖尿病の人がいたってことだ。足の指が壊疽するほどの重症な糖尿病であったようだが、この時代の人にしては長命で享年は79歳。残されている肖像画が面長でやせ形なのは糖尿病で体重が減少したせいだろうか? 当時は血糖値という概念はないので、糖尿病は水をよく飲むようになる病ということで、「飲水病」と呼ばれていたようだ。
日本の飲水病(糖尿病)患者第一号とされているのがこれまた藤原氏でしかも超大物の藤原道長。紫式部や和泉式部などの女流文学者を庇護した道長は源氏物語の主人公である光源氏のモデルの1人とされている。颯爽としていて豪気な(を通り越して独尊な)逸話を多く残す人物であるが、50歳を超えたあたりから急にやせ細り、のどの渇きをしきりに訴え、ついには目の前の人物を識別できないほどに視力が低下したとあるので、糖尿病の合併症の網膜症と症状が合致する。
ほかにも織田信長が糖尿病だったという説は面白い。信長といえば大の甘党だったという記録があり、糖質の中でも甘い物の摂り過ぎで糖尿病になった可能性がある歴史上の人物第一号は信長かも。天下布武が仕上げに近づき安土城に移ったころからは、糖尿病神経障害で下肢のしびれや痛みがひどくなったようだ。信長も肖像画は痩せているが、高血圧だったとも言われており、もしかしてメタボだった? 信長が行った残虐行為は糖尿病による不調でイライラしていたせいという説もあるが、さすがにこじつけすぎではないかと。
というわけで、少なくとも1000年近く前から糖質中心の日本風の食事をたらふく食べることができた階級には糖尿病を患っていた人がいたのである。明治時代になると、糖尿病を患う著名人は増えてくる。明治天皇や夏目漱石も糖尿病だった。
昔は糖質を多く含む食事をしていても糖尿病にはなりにくかった。その理由はお腹いっぱいに食べられることが稀だったというのもあるが、摂取した糖質は日々の生活の活動でエネルギーとして消費できていたと考えるのが自然。日本での糖尿病患者数の推移を追うと1960年に入ってから急増し初め、その後も勢いよく右肩上がりで増えている。1960年といえば白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫といった三種の神器が普及し始め日本人の生活の質が急激に改善された時期。生活の質の向上は必要なエネルギーの量を激減させた。電気掃除機の普及もほぼ同じ時期の出来事だ。
時代はどんどん糖尿病を蔓延させる方向へと進んでいる。ダイエットや健康ブームによって日本人の摂取カロリーは1989年をピークに減少傾向にある。にも関わらず肥満率も糖尿病患者数も増え続けている。ネットの普及で労働における無断なエネルギー消費は排除された。家電は家事に必要なエネルギーを限りなく0に近付けるべく進化し続けている。在宅勤務は珍しくないし、掃除なんてロボットで全自動だもんね。意図的に運動しなければ摂取した糖質を消費できない時代になっているってこと。消費できない分は中性脂肪になって肥満の元になるしかないのが糖質なわけで、糖質の摂取量を減らす以外に健康的に暮らす方法はないと思うのだが……。
著者: へた釣り