生産される地域や手法が厳密に守られており、2000年以上の歴史があるチーズもあれば、現代人の舌に合わせてこの数年で作られ始めたという新参のチーズもある。北海道の牛乳に惚れこみイタリアから日本に移住してきたチーズ職人が作ったなんて冒険心溢れるチーズもある。
フランスならA.O.C.(Appellation d'Origine Controlee)はワインやチーズなどに与えられる国のお墨付きだ。ワインならd'Origineの部分にボルドー(地方)だったり、メドック(地区)だったり、マルゴー(村名)が入る。チーズでは生産地は書かれないが、箱にA.O.C.のマークが入っているチーズは決められた地域で伝統的な手法に則って作られたチーズということになる。一方でA.O.C.を取得せずに規則に縛らないチーズ作りを志す生産者もいる。伝統的なチーズに様々なアレンジを加えて作られたチーズが次々と生まれており、そのうちの一部は日本でも買える。トリュフを挟んだチーズもそうだ。伝統に縛られない新しい発想で作られたチーズは刺激的だし面白い。
今回の8種類のチーズは伝統的なチーズと斬新なチーズが面白い具合に組み合わさっていた。印象に残ったのはブリ・オ・グラン・マルニエだ。スパークリングワインとマリアージュするために柑橘類とチーズこんな風に出会うなんてとびっくりした。いろんなチーズを食べてきたがチーズとは別物に進化したチーズかもと感じたのは初めてかも。
1.ペコリーノ・サルド・マトゥーロ
イタリア 羊乳 セミハード・ハード
サルデーニャ島で作られる羊乳のチーズでマトゥーロは熟成期間が2カ月以上の物のこと。表面にオリーブオイルを塗って熟成される。塩はやや強くパサシャリとした生地が口の中でほぐれると羊乳の甘さとコクが襲ってくる。と同時に野趣あふれる香りをしっかり感じる。羊乳のチーズは濃厚で美味しいってことを実感できるはずだ。
2.ブリ・オ・グラン・マルニエ
フランス 牛乳 白カビ
グラン・マルニエはコニャックをベースに造られるオレンジリキュールで、これをイタリアのフレッシュチーズであるマスカルポーネに混ぜたものをブリの生地で挟んで表面に白カビを吹きつけて熟成させた物。オレンジの柑橘系の風味と甘みがチーズに移って爽やかな食べ心地となる。スパークリングワインとは相性抜群だと思う。
3.ブル・ディ・カプラ
イタリア 混乳(牛乳、山羊乳) 青カビ
ミルクの甘み、塩味、青カビの刺激をバランスよく楽しめる。牛乳と山羊乳の混乳から作られている生地はクリ―ミーで甘く、少し酸味もある。塩味はその甘みを引き立てる。最初、甘みを強く感じるので青カビの刺激は控えめ?という印象を受けるが、甘みが引いていくとしっかりとした青カビの刺激がやってくる。
4.ヴァルタレッジョ・アル・タルトゥーフォ
イタリア 牛乳 ウォッシュ
イタリアを代表するウォッシュチーズがタレッジョ渓谷で作られているタレッジョ。塩水で洗われる表皮にはウォッシュらしい香りはあるものの生地のミルキーさと優しい甘さは非常に食べやすい。そんなタレッジョにトリュフを混ぜた物がこれ。生地の中に点在する黒点がトリュフだ。味というより生地に移ったトリュフの香りを楽しもう。
5.カブリファン
フランス 山羊乳 シェーブル
厚いめの白カビが表面を覆った円筒型の山羊乳から作られたチーズ。白カビに守られて熟成が進むことで生地はトロトロになり山羊乳の濃厚な味が凝縮される。中央部には熟成が進んでいない芯が残っていた。そこはしっかり山羊乳のさわやかな酸味を残している。1切れで3種の美味しさを味わえる。
6.カチョカヴァロ・ファットリアビオ
日本 牛乳 パスタフィラータ
北海道の牛乳に惚れこんでイタリアから移住してきたチーズ職人が作るカチョカヴァロ。1.5センチくらいにスライスした物をオリーブオイルをひいたフライパンで両面焦げ目がつくまで焼いて食べると絶品である。芳醇なチーズの香りとミルキーで優しい味は至福だ。焼かずにそのまま食べてみたがこのチーズは焼くのが正解。
7.コンテ・ド・モンターニュ12+
フランス 牛乳 セミハード・ハード
コンテを食べるとき意識するのはフリュイテとは?ってこと。エピセアの板の上に置かれて熟成されるコンテは、最低でも83種の風味を持つと言われている。鈍い味覚と臭覚でいくつのフリュイテを探せるかに挑戦する。そんな難しいこと考えなくても芳醇な香りと濃厚なミルクの味を楽しめる鉄板で美味しいチーズなのだが……。
8.カンタル・アントル・ドゥ
フランス 牛乳 セミハード・ハード
2000年以上の歴史があるという40キロ級の大型のチーズで90日以上熟成された物を「アントル・ドゥ」と呼ぶ。乾いた表皮はゴツゴツと武骨な感じだが、生地はナッティで繊細な味わい。口の中でもろく崩れ濃厚なミルクの香りが広がり、苦みを後味に残して溶けて消えて行く。重口の赤ワインと合いそうなしっかりしたお味。
著者: へた釣り