チーズ道楽の楽しみの1つがチーズの歴史をたどること。貧しかった農民の知恵だったり、税を逃れるためだったりがチーズの成り立ちになっていることがある。今ではAOPを取得済みのシャロレは土地を持たない小作農が路傍で飼っていた数頭の山羊の乳から作った小さなチーズだ。
フランスでも16世紀になると大地主が現れ、自分の土地を持てない農民たちは小作農として地主に雇われるようになっていた。貧しい小作農たちは路傍に数頭の山羊を飼い。その乳から作る自家製のチーズを食べていた。シャロレはそんな歴史を持つチーズ。そういったチーズは大量生産大量消費の流れに埋もれて姿を消していくことが多いのだが、このチーズを保護しようとする人たちに守られ、EU圏で生産された高品質チーズの証であるAOPを取得した。日本にも輸入されるようになったのだからすごい。日本に当てはめれば戦国時代に貧しい農民が食べていた物が世界中に輸出されるようになったのに等しいわけで……そんな例がないものかと探してみたが見つからなかった。
今週のチーズセットはまずまずのアタリ。食べたことのないチーズと食べたことはあるけどもう一度食べてみたかったチーズ、そして定番のハズれないチーズがバランスよく入っており、さらに味のバリエーションにも富んでいたので満足感が相当高い。山羊乳と牛乳、雰囲気が全く違う青カビ2種の食べ比べが楽しかった。
1.フルム・ド・モンブリゾン
フランス 牛乳 青カビ
フランス中部の山岳地帯オーヴェルニュ地方で作られている青カビチーズでかつてはフルム・ダンベールと同一視されていた。フルム・ド・モンブリゾンは杉の木の棚で熟成させるため表皮がオレンジ色になり、まろやかで甘みのある味わいの中にミルクのコクが余韻として広がる。青カビの刺激は控えめでほのかに苦みがある。
2.ブルー・ド・メメー
フランス 羊乳 青カビ
メメーはフランス語でおばあちゃんって意味なので、おばあちゃんの青カビチーズってこと。青カビの刺激はあるけど、羊乳の甘味とほどよく効いた塩分に隠れて食べやすいマイルドな青カビチーズになっている。羊乳の青カビチーズといえばロックフォールが有名だが、食べ比べてみると、おばあちゃんの優しさが分かるかも。
3.エポワス
フランス 牛乳 ウォッシュ
神のおみ足と例えられる強烈な臭いがするウォッシュチーズのはずなのだが、表皮をはげば意外と平気。ドロリと溶けた生地のミルキーはママの味系の美味しさ。濃厚なその味はチーズの王と呼ぶにふさわしい。もっとトロトロに熟成させたらどうなるんだろうと思うが、美味しすぎて熟成前に食べきっちゃうのである。
4.ハード・ゴート・チーズ
イギリス 山羊乳 セミハード・ハード
イギリスでもっとも人気のある山羊乳チーズがこれで、チェダーチーズと同じ製法で作られているためねっとりもっちりとした食感を楽しめる。無殺菌の山羊乳から作られてるだけあってミルクの旨みと香りが濃厚に感じられる。半年くらい熟成されているせいか味が凝縮されて力強い。お酒のお供のオツマミチーズにもよさそう。
5.ブション・ダルマンス
フランス 牛乳 白カビ
白カビ部分のキノコにも似た豊かな香りと旨み、しっとりとした生地のミルクの濃厚さにびっくりした。どうやら無殺菌乳から作られるシャウルスと似た製法で作られているチーズのようだ。ほどよく熟成したこのタイプの白カビチーズは白カビ、しっとりとした生地、白カビと生地の間のトロトロな部分と3つの味を一度に楽しめる♪
6.シャロレ
フランス 山羊乳 シェーブル
1つ250グラム程度とそれほど大きくない円筒型をしており黄味がかった表面には緑色のカビが生えている。生地は真っ白でキメ細かい。山羊乳らしい酸味と甘みがバランスよく感じられ口の中でほぐれて蕩けていく。無殺菌の山羊乳らしいクセを残していく。この余韻まで含めて最高のシェーブルチーズの1つではないかと思う。
7.スカモルツァ・アッフミカータ
イタリア 牛乳 パスタフィラータ
モッツァレラの生地から水分を抜いて作られるのがスカモルツァ。それを燻製したのがスカモルツァ・アッフミカータだ。モッツァレラもスモークチーズも日本人の好みの味なわけでこの味を嫌いという人はあまりいないと思われる。そのまま食べてもいいが焼いて食べると香りが立ち、トロ~リと溶けるのでさらに日本人好みに。
著者: へた釣り