オタク気質なので何の役にも立たない知識を集めるのが好きだ。チーズはその味だけでなく、成り立ちなどの歴史を調べると楽しみ方に奥行きが出ると思う。例えば、最もメジャーなチーズ、カマンベールのお母さんはブリ(の製法を教わったマリー・アレル)でお父さんはリヴァロ(大佐)。
カマンベールは意外と歴史の浅いチーズでフランス革命のころ、1790年代に誕生した。ブリ・ド・モーなど白カビチーズの一大産地であるブリ地方からやってきた司祭にチーズの作り方を教わったのがカマンベールの隣の村で暮らしていた女性、マリー・アレル。ブリ・ド・モーは後に「チーズの王様」と呼ばれることになる極上のチーズ。マリーはそのチーズを気に入り作り始める。その時利用したのが、当時カマンベール村を含むノルマンディー地方で作られていたリヴァロというウォッシュチーズの枠型。リヴァロは熟成中型崩れしないように5本の植物製の帯が巻かれており、それが階級章に見えることから「大佐(コロネル)」という愛称がある。カマンベールとリヴァロの大きさや表面の模様がそっくりなのは同じ枠型で作られたから。農家の娘マリー・アレルとリヴァロ大佐が生みだしたカマンベールはわずか200年で世界で最も有名なチーズになっていく。
1.モンターズィオ・スタジオナート
イタリア 牛乳 セミハード・ハード
イタリア北部のモンターズィオ山のふもとにあるモッジオ修道院の修道士が13世紀に考案したと言われているハードチーズ。スタジオナートは12カ月間熟成された物。水分が抜けて少し硬めの生地には牛乳の旨味が結晶化したシャリシャリとした部分が散っており、濃厚なミルクの甘味を楽しめる。もう少し若い物も食べてみたくなる。
2.キャッシェル・ブルー
アイルランド 牛乳 青カビ
アイルランド生まれの青カビチーズ。ねっとりとしてクリーミーな甘みのある生地に青カビのピリッとした刺激とナッツのような香ばしさがほどよく混じる。イギリスを代表する青カビチーズのスティルトンと非常によく似ており、風味も似ているが、青カビの刺激がマイルドな印象で食べやすい。
3.スプリンツ・ブロック
スイス 牛乳 セミハード・ハード
一説には1世紀からその原型となるチーズは存在していたといわれる最古のチーズの1つで、保存性を高めるためにか水分は抜け切って超ハード。フォークで一口サイズに切ろうとすると苦労した。専用のカンナのような道具で薄く削って食べるようである。ナッティな香りが強く、コクのある生地にミルクの結晶がほどよく混じる。
4.アイリッシュ・ポーター
アイルランド 牛乳 セミハード
生地の黒い部分にはアイルランドの黒ビール、ポーターを練り込んである。黄色部分はチェダーチーズで黒と黄のモザイク状の見た目はインパクトがある。チェダーよりビールを混ぜた分水分が多いのかねっとりとした食感で黒ビールの香ばしさと甘味を感じる。見た目が派手なので手を出しにくいチーズだがクセがなく食べやすい。
5.プティ・リヴァロ・レーシュ
フランス 牛乳 ウォッシュ
ノルマンディ三大チーズとされているのがカマンベール、リヴァロ、ポン・レヴェック。新参のカマンベール以外はウォッシュチーズなのが面白い。レーシュという紐が5本巻かれておりこれが陸軍大佐の袖口に似るので「大佐(コロネル)」と呼ばれる。香りはやや強めで弾力のある生地はミルキーでいて濃厚な味わい。ウォッシュらしいウォッシュチーズで、表皮は剥いで食べた方がよい。
6.ピコドン・フェルミエ
フランス 山羊乳 シェーブル
1つ60グラムの小さくてかわいいシェーブルチーズだ。香りが強い牧草を食べた山羊の乳で作られているので「ピカン(ピリッして)+ドゥ(甘い)」からピコドンと名付けられたそうだが、ピカンな部分は舌で探すのは難しいかも。ミルキーでいて少し酸味があってさわやかな味わい。生地は乾燥してパサパサしているので口の中で長くとどめて唾液を吸ってねっとりとなり蕩けていくのを楽しみたい。
7.ガプロン
フランス 牛乳 白カビ
クリームからバターを取ったあとのバターミルク(脱脂乳)で作られたチーズで低脂肪で味わいがあれなので「姑のおっぱい」なんてありがたくない別名も。味が足りない分、ニンニクと黒コショウが混ぜられており、スパイシーなチーズに変身している。ミルクの風味は確かに控えめだが、ビール(糖質オフ中につき飲めないないけど)のおつまみには最高かもな味だった。
著者: へた釣り