チーズプラトーを作るとき、まずは主演を決める。主演は個性派がいい。次に助演選び。主役とは対照的なタイプがいい。この2つを引き立て、キャラが被らないように共演者を選んでいく。野趣溢れるムラン(主演男優)、さわやか味のマルツォリーノ(アイドル女優)の共演は上手くいった。
ブリ・ド・ムランは白カビチーズを代表するブリの中核をなすブリ三兄弟の次男。長男のブリ・ド・モーは熟成具合によっていろんな楽しみ方ができるチーズの王様。三男のクロミエは規則(A.O.C)に縛られない自由なチーズで殺菌乳の物もあれば無殺菌乳の物もあり、いろんな個性を発揮する。次男のブリ・ド・ムランは野趣に溢れる個性派だ。熟成が進むと表皮が茶色く変色し、キノコっぽさを通り越して藁のような香りがし始める。マルツォリーノは3月限定の羊乳チーズ。早春に出産した羊が春の若草を食べて子供に与えている乳だけで作られる。さわやかで羊乳の甘味を存分に楽しめるみんなに愛されるタイプのチーズだ。
共演もなかなかの粒ぞろいになったのではないかと。酸味が抑え目になりチーズとしての完成度がさらに増したブリア・サヴァラン・アフィネの化けっぷり、ガレ・ド・ラ・ロワールの生クリームを舐めているようなミルキーさ、セル・シュール・シェールの完成された山羊乳チーズの魅力など味のバリエーションに富み、しかも美味しさのベクトルがほどよく散っているので一口ごとにまさに口福を味わえる。
1.オベハ・アル・ロメロ
スペイン 羊乳 セミハード・ハード
オベハはスぺイン語で羊乳の意味、ロメロはローズマリーのこと。羊乳で作ったチーズの周りにびっしりとローズマリーをまぶして3カ月間熟成させたチーズだ。ローズマリーの味と香りが生地にも浸透しており、爽やかな味わいに草木の芽吹きを感じさせるローズマリーの刺激が加わって春を連想させるチーズになっていて面白い。
2.セル・シュール・シェール
フランス 山羊 シェーブル
パリ南西部を流れるロワール川の流域で生まれた歴史あるチーズだ。表面にはポプラの木炭粉がまぶされており熟成にともなって乾いてグレー色になってくる。山羊乳らしい純白の生地は水分が抜け濃厚な山羊乳のコクを味わえる。熟成具合がちょうどよかったのか酸味はほとんど感じられず甘味と塩味のバランスが絶妙。
3.ブルー・ドーヴェルニュ
フランス 牛乳 青カビ
青カビの入り方などパッと見はロックフォールに似ており、青カビの刺激の具合もよく似ている。ただし、ロックフォールが羊乳なのに対してこちらは牛乳。無殺菌の牛乳で作られた生地はミルキーでまずは甘くてコクのある味が口いっぱいに広がる。少し遅れて青カビの苦みと刺激が追い掛けてくる。青カビチーズを食べた感を存分に味わえるよ。
4.マルツォリーノ
イタリア 羊乳 セミハード・ハード
ミルクの保存技術が進化する以前は3月にのみ作られていた。冬が終わり野焼きをしたあとに生えてくる柔らかい草を食べた羊の乳から作られると聞くと、なんだかとても贅沢をしている気分になれる。むっちりとした弾力のある生地は、フレッシュチーズのような初々しくさわやかな味とミルクの甘味を同時に味わえ、思ったより力強く口の中に長くとどまってくれる。
5.ペコリーノ・トスカーノ
イタリア 羊乳 セミハード・ハード
ペコリーノはイタリア語で羊乳で作られたチーズのこと。トスカーノはワインやオリーブの産地として知られるトスカーナ地方のこと。やや白っぽい生地は羊乳らしい甘みと酸味があり、口の中で溶けるのを楽しんでいると、ミルクのコクが少し遅れてやってくる。塩味は以前食べたことのあるペコリーノ・ロマーノに比べると格段に穏やか。イタリアでは空豆と一緒に食べられるそうなので今後試してみたい。
6.ガレ・ド・ラ・ロワール
フランス 牛乳 ウォッシュ
今回のプラトーであわや主役を食いそうなってほとにインパクトがあったのがこれ。ウォッシュチーズなのに見た目は白カビチーズ。しかもトロトロになった生地はまるで生クリームを舐めているかのようなミルキーさ。ウォシュではあるが水で洗っているだけのためウォッシュ特有の香りはほとんどせず、ミルクの旨味を濃縮した味。機会があれば丸ごと1個食べてみたいリストの上位にランクインした。
7.トム・ド・モンターニュ
フランス 牛乳 セミハード・ハード
トムは小型のチーズのことを指すのだが、このチーズは10キロもあるのでトムと呼ぶのがふさわしいのか、どうか? 表皮がさまざまな色のカビに覆われ飾り気がないのはトム・ド・サヴァワにそっくりではある。ナッティな香りがし、しっとりとした生地はミルクの甘味があって飽きの来ないお味のチーズだ。
8.ブリア・サヴァラン・アフィネ
フランス 牛乳 白カビ
美食家の名を冠した至高のデザートチチーズ、ブリア・サヴァランを4週間熟成させた物。表面は柔らかい白カビに覆われ、クリームがたっぷり加えられた生地は熟成前に強く感じた酸味が抑えられ、チーズらしさが増している。しっかりとミルクのコクが感じられるようになり、若いうちも美味しかった名優が時を経てさらに化けた感じ。
9.ブリ・ド・ムラン
フランス 牛乳 白カビ
白カビチーズ界一のクセ者チーズと紹介されることが多く、特に熟成が進んだ物はと言われることが多かったので食べ頃の物と出会えるのをずっと待っていた。「ロワゾー熟成」という物を購入した。表皮は少し茶色く変色し始めており、自重で型崩れしないように切り口にはプラスティックの板があてがわれていた。白カビの特徴であるキノコやマッシュルームのようなと言われる香りが強烈で藁というか積み上げた牧草のような香りがする。表皮の香りに邪魔されないように、生地の部分だけを食べてみると塩味が少し強めで力強く濃厚、ミルクの豊かなコクを味わえる。賛否分かれるチーズだと思うが、表皮を外して生地だけ食べればクセになるクセ者チーズの1つだと思う。
著者: へた釣り