未知のチーズはまだまだあるはずなのになかなか出会えなくなってきている。でも、なにかの弾みに初体験の味とまとめて邂逅となるから面白い。いつものように7種のチーズセットを買ったらなんとうち5つが食べたことないチーズだった。季節が変わったから? 単なるラッキーなの?
生乳の保存技術が進歩したことによって年中作られるチーズがほとんどになっているとはいえ、チーズにも季節(旬)というのがあるようだ。ただし、日本の季節の進みとフランスやイタリアのそれも山間部に多いチーズ産地の季節とが一致しないのでどうにもイメージしにくい。チーズの産地を旅する聖地巡礼ツアーの案内を見たことがある。一度くらいは産地の様子を見てみたいなぁなんて贅沢な夢を見ている。そんなお金があれば全部釣りの資金に消えてしまうので夢がなうことはなさそうだけど……。
チーズ売り場で売られているチーズをぼんやり眺めるのが好きだったりする。妻いわく「食べ物を眺めて何が楽しいの?」ってことになるのだが、チーズの名前の下に書かれている味の説明を読んでいるだけで幸せになれるのだから我ながら安上がりな食い意地の張り方だと思う。実際に買えるのは消費期限が迫って値引きされている物くらいなんだけどね……。
1.カブリファン
フランス 山羊乳 シェーブル
厚いめの白カビが表面を覆った円筒型のシェーブルチーズ。山羊乳で作られた白カビチーズは実に美味い。白カビに守られて熟成が進むことで生地はトロトロになり山羊乳の濃厚な味が凝縮される。中央部には熟成が進んでいない芯が残っていた。そこはしっかり山羊乳のさわやかな酸味を残している。1切れで3種の美味しさを味わえる。
2.ラスケーラ
イタリア 牛乳 セミハード・ハード
ねっとりとした食感と優しいミルクの風味を味わえる。生地にはところどころ小さな気孔がある。角が丸まった四角いチーズでこれはラバに積んで運びやすいようにこの形になったんだそうだ。脱脂乳で作られているので濃厚さよりもナッティーな香りを楽しむチーズかな。
3.サン・シモン・ダ・コスタ
スペイン 牛乳 セミハード・ハード
とがったおっぱい型チーズを樺の木でスモークしたものだ。ガリシア地方で作られる円錐型のいわうるおっぱいチーズは例外なく日本人の口に合う物が多いが、スモークされたことでさらに日本人好みになっているように感じる。表皮の燻製香と燻製によるほんの少しの苦みとチーズ本来の優しい甘みが絶妙のバランスで並存している。
4.プティ・ブリ・ポワブル
フランス 牛乳 白カビ
ブリのトッピングで鉄板なのが黒コショウだが最初から表皮に黒コショウをまぶしてくれているのがコレ。ダブルクリームタイプなので濃厚なミルクの味がする。少し厚めの白カビの香りとピリッとした黒コショウの刺激がアクセントになる。黒コショウは結構たくさんかけてもいいんだなぁと気付かせてくれる。ビールが欲しくなる味かもね。
5.エズィ・サンドレ
フランス 牛乳 ウォッシュ
19世紀ごろにウォッシュチーズの産地として有名なエポワス近郊の村で作られていたチーズを復活させたのがエズィ・サンドレ。特徴はその熟成方法で樫の木や葡萄の木から作られた細かい灰の中に埋めて熟成される。生地はトロトロでミルクの旨味が濃縮された感じでナッツのような香りがする。表面の灰にも旨味があるので剥がずに食べるのがオススメだ。
6.キャッシェル・ブルー
アイルランド 牛乳 青カビ
アイルランド生まれの青カビチーズ。ねっとりとしてクリーミーな甘みのある生地に青カビのピリッとした刺激とナッツのような香ばしさがほどよく混じる。イギリスを代表する青カビチーズのスティルトンと見た目が非常によく似ており、風味も味の組み立ても似るが、青カビの刺激がマイルドな印象でスティルトンより食べやすい。
7.バザイオ
イタリア 羊乳 青カビ
シチリア島の南西パンテッレリア島で作られる超酔っぱらいチーズ。お酒が弱い人は注意が必要かも。羊乳で作られた青カビチーズを陰干しした葡萄からつくる甘口ワイン用のブドウの搾り汁と搾りカスに漬けて熟成される。水分多めでチーズの洋酒漬けのような状態。ワインの香りと味がするブドウまで乗っている。羊乳チーズのコクと甘みも、青カビの刺激もしっかり感じられる。お酒好きにはたまらない。
著者: へた釣り