よく名前を聞くチーズの多くがAOPやDOPで定められたルールに則り作られている。だからといって同じ味にはならないのが面白い。生産者によって味が違うし、熟成士によって違いはさらに際だつ。食べたことがあるはずのチーズを別物!?とすら感じることもある。チーズ道楽は奥が深い。
楽しむためのチーズを買うとき、真空パックされた物はなるべく買わないと決めている。真空パックされることで熟成はそれ以上進まなくなり、味の変化はなくなる。どれを食べても同じくらい美味しいわけだ。チーズを食料品と考えれば大事なことかもしれないのだが……嗜好品と捉えると大量生産された物はつまらない。大規模な工場製の物よりも農家(フェルミエ)製など小規模な生産者のチーズの方がクセが強く出会えてよかったぁという喜びを与えてくれる。チーズの場合、生産者だけでなく熟成士によっても味が著しく変化することを知った。生産者のこだわりと熟成士の技、そして食べるタイミング(熟成は刻々と進む)によって、同じ名前で売られているチーズが一期一会の味になる。
上の文章、随分大上段から書いてしまったと反省している。ゴルゴンゾーラはパックされた物がスーパーでもよく売られている日本で最もよく食べられているチーズの1つだが、今回食べた物が今まで食べた物をはるかに凌駕して美味しかった。甘みも青カビのほどよい刺激も全くの別物だった。これまで食べた物も今回食べた物も同じゴルゴンゾーラには違いないが……ここまで違うかとびっくりした。
1.コンテ・ド・モンターニュ・オーガニック
フランス 牛乳 セミハード・ハード
コンテを食べるとき意識するのはフリュイテとは?ってこと。エピセアの板の上に置かれて熟成されるコンテは、最低でも83種の風味を持つと言われている。鈍い味覚と臭覚でいくつのフリュイテを探せるかに挑戦する。そんな難しいこと考えなくても芳醇な香りと濃厚なミルクの味を楽しめる鉄板で美味しいチーズなのだが……。
2.スプリンツ・ブロック
スイス 牛乳 セミハード・ハード
ヨーロッパ最古のチーズの1つとされているのがスプリンツ。短くても1.5年、長いものでは3年熟成されているので水分が抜けてかなり硬い。カンナのような専用のスライサーで薄く削って食べるのが正統派のようだが、今回は味が分かりやすいように厚めに。さわやかな甘味があって食べやすいチーズで、ミルクの旨味が結晶化したコリコリとした食感が混ざる。
3.笹ゆき
日本 牛乳 白カビ
北海道の共働学舎新得農場で作られているカマンベール。北海道に自生している熊笹入りの塩を使って作られ仕上げに熊笹の葉を巻いてある。熊笹の風味がかすかに感じられる、国産らしいミルクの優しい味を楽しめるカマンベールチーズだ。今回は熟成具合がほど良くトロリと蕩けた生地の濃厚さを堪能できた。
4.マンステール
フランス 牛乳 ウォッシュ
修道院で作られたウォッシュチーズでフランスで最も古いチーズの1つに数えられる。古いウォッシュチーズというと強烈で個性的な香りと味かもと考えがちだが、マンステールに関してはマイルド。しっとり柔らかい生地の濃厚なミルキーさとコクの強さが素晴らしい。それでいて香りは強くない。ウォッシュチーズにクミンをトッピングするという食べ方はマンステールから生まれた物らしい。
5.トレフル
フランス 山羊乳 シェーブル
トレフルはフランス語でクローバーのことで、四つ葉のクローバーの形をしている。2005年に生まれた新しいチーズだ。外皮は青灰色のカビに被われ柔らかい。生地は山羊乳らしく白くキメ細やかで柔らかくねっとりと歯にまとわりついてくるような食感。山羊乳らしい酸味と甘みと塩味が口の中で広がる。
6.ゴルゴンゾーラ・ピカンテ
イタリア 牛乳 青カビ
世界3大青カビチーズの1つに数えられるイタリアのゴルゴンゾーラ。名前の響きがよくイタリア料理のメニューでその名をよく見かけるので知っている人は多いと思う。ゴルゴンゾーラにはピカンテとドルチェの2種類があり青カビの刺激が強いピカンテが正統派。ただし食べやすく青カビを減らしたドルチェの方が主流派になっているようである。
7.プロヴォローネ・ドルチェ
イタリア 牛乳 パスタフィラータ
モッツアレッラと同じパスタフィラータという製造法で作られている。ほどよい弾力がある。表面を焼いて食べるとまるでお餅のように伸び、チーズステーキ用として売られていることも。そのまま食べても牛のミルクの味をしっかり感じることができるが、やっぱり焼いて食べるのが正解かなぁ~。
著者: へた釣り