「腐った豆食ってばっちぃやん!」。本気でそう思っていた。臭いも好きでなかったし、糸を引く感じが生理的に耐えられなかった。定食屋などで近くで食ってる人がいると、俺の近くでそんなモン食うなと怒鳴りつけたいくらいの納豆嫌いだった。でもね、食ってみると意外と美味かったんだよね。
大阪の実家は納豆を一切食べない家だったので、そういう食品があって、大阪では嫌悪されている食べ物だってくらいの認識しかなかった。それで何も問題がなかったし、それが普通だった。高校の修学旅行で東北に行った。旅館での朝食は給食のような配膳方式だった。お盆を持って並んでご飯やみそ汁、おかずを乗せてもらう。納豆を配っていた旅館の女性が大層気の強い人で、何人かに「納豆はいらん」と言われて癇癪を起した。「美味しいから食べなさい!」。無理やりお盆の上に乗せ始めたのである。「いらんわ」と突き返してもおばさんも意地になってお盆に乗せようとする。納豆を配っているところで配膳の列は大渋滞を起こす。根負けして納豆を受け取らざるを得なかったわけだ。
大人になればもらうだけもらっておいて食べなきゃいいと考えられるのだが、高校生男子はそうは考えない。席に着くなり誰かが「いるか、こんなもん!」と納豆を投げ始めた。納豆嫌いが同調する。わざわざパッケージを開けて中身が撒け出るようにして投げ始めたアホまでいたから、阿鼻叫喚の修羅場と化す。生活指導の先生が怒号を放って何人かの生徒をビンタしたもんだから、その先生に向かって一斉に納豆が飛ぶ。旅館のおばちゃんたちまで金切り声をあげてドタバタ走り回る。格好の標的である。何人かは修学旅行中に停学処分をくらって、その後バスから降りることはなかった。でも、俺は見ていた。先生たちだって納豆を受け取ってなかった……。
それくらい納豆が嫌いだったし、嫌いであることが当たり前だったのである。ところが食生活を改善しようとすると、万能栄養食の卵とともに食事に取り入れる努力をすべき食品ではないかと気付いた。糖尿病の合併症で一番怖いのが脳梗塞、心筋梗塞などを引き起こす動脈硬化だ。納豆に含まれるナットウキナーゼには血栓を溶かす効果がある。血栓が溶けることによって血圧が下がることが期待できるそうである。さらに納豆のネバネバには水溶性食物繊維が豊富に含まれており、小腸での糖質の吸収を緩やかにする。不溶性食物繊維も豊富なので便秘も解消。亜鉛が多く含まれるのでインスリン分泌の正常化も期待できる。高タンパク食で糖質は1パック40グラムあたり2グラム程度。しかも安価! と、くれば一回くらい食べてみるか!!って気分にもなる。妻に「やっぱりダメだったら残すからごめんね」と断ってから食べてみると、どうして今まで毛嫌いしていたのかと自分でも不思議に感じるほどに美味かった!
以来、朝食に1パック納豆を食べるようになった。付属のタレとからしは糖質量が分からず不安なので使わない。醤油を数滴たらし、オリーブオイルを小サジ1杯入れて粘りすぎない程度にかき混ぜる。お気に入りは安く買えることが多い超小粒とか小粒として売られている物で3パックで100円以下。もっと美味しい納豆を食べてみたいなという欲もでてきた。全国納豆鑑評会なんてイベントが毎年行われていることを知る。2015年の最優秀賞は「国産大粒 つるの子納豆」。ネットでも買えるが送料を考えると割高感があるのでスーパーで見つけたら買ってみるつもり。ほかにも優秀賞などを受賞した納豆の名前のメモをいつも財布に入れて持ち歩いて売られてないかチェックしている。藁でくるまれた高級そうな納豆も一度くらいは食べてみたいなぁ~っと。
著者: へた釣り