チーズの風味を指す言葉の1つにフリュイテというのがある。フランス語でフルーティという意味になると思うのだが…フルーティなチーズと言われると、そんなのこれまで食べた物の中に1つでもあったっけ?と頭を抱えることになる。コンテはフリュイテなチーズの代表らしいのだが…。
パリの有名なチーズ店の主にして熟成士でもあるマリー=アンヌ・カンタンが書いた「フランスチーズガイドブック」を読んでいる。日本人が書いたチーズのカタログ本とは違い、主観的な意見がはっきりと書かれていて非常に面白く読める。個人的には贅沢の極み!?と感じたブリ・ド・モー・オ・トリュフなんて彼女にかかれば「トリュフのむだづかいだという気がする」とバッサリ。本を読み進めて行く上ですごく悩ましいのがチーズの風味を指す「フリュイテ」という表現。マイルド、力強い、独特などと並んで、何の説明もなく理解できて当たり前の言葉としていきなり登場する。フルーティな風味のチーズ? チーズにフリュイテを感じられるようになるまで修行は続く???
フリュイテと書かれているチーズの共通店を探ってみる。チーズなのでもちろんフルーツの香りはしない。ミルクの香りが風味よく感じられるチーズを指してフリュイテと表現されている気がする。ミルクに加えてナッツのような香りがするコンテなどはフリュイテなチーズでいいのかな? 今回はセックなんて単語も出てきた。セックは「乾いた」ってことなのでトレ・セックはよく乾燥させたでいいと思う。
1.サント・モール・ド・トゥーレーヌ・トレ・セック
フランス 山羊乳 シェーブル
少し太さが違う棒状のチーズでその中央には藁の棒が一本通っている。表面に木炭の粉がかかっている。山羊乳らしいライトなミルク感とヨーグルトのようなさわやかな酸味を味わえるチーズだったが、8~9週間熟成されてトレ・セックになると全くの別物に。水分が抜けフォークを入れるのに力がいるくらい硬くなった生地は山羊乳のコクも酸味もギュッと凝縮されとにかく濃厚。
2.マロワル・ソルベ
フランス 牛乳 ウォッシュ
フランス北部のベルギーとの国境近くで千年以上前から作られている修道院製のチーズだ。殺菌乳に赤い酵素を添加して作られる。丁寧に塩水で洗われた表皮からは強烈な香りがするようになり、ベタ付いた表皮とこの香りだけで苦手な人は顔をしかめるかも。表皮を剥げば濃厚でミルキーな味わい。少し塩味が強い系かな?
3.フォンティーナ・ヴァッレ・ダオスタ
イタリア 牛乳 セミハード・ハード
フランスやスイスに国境を接するイタリアの北西部の渓谷でヴァッレ・ダオスタ種の牛のミルクから作られている。イタリアを代表する山のチーズで、イタリア風のチーズフォンデュに欠かせないチーズであるそうだ。弾力のある生地はまろやかで蕩けるような口あたり。ナッティーな香りとミルクの甘味をしっかり感じることができる。
4.オッチェッリ・アル・バローロ
イタリア 牛乳 セミハード・ハード
オッチェリはイタリアのピアモンテにあるバターで有名な乳製品の会社。テストゥン(石頭の意)というチーズを高級ワインバローロを作った絞りかすにつけて2カ月間熟成させて作られるのがオッチェッリ・アル・バローロ。石頭ってくらい硬かったチーズがお酒によってほんのり赤く(紫)になり、柔らかくなるのは、チーズが酔っぱらったみたいで面白い。ワインの濃厚な香りとブドウの甘味にチーズが持つミルクの甘味が加わって極上の味わい。
5.ペルシエ・ド・シェーブル
フランス 山羊乳 青カビ・シェーブル
ペルシエはパセリの意味で、山羊乳のチーズの白い生地に点々とみじん切りにしたパセリのように広がる青カビが映える。山のチーズを多く産するサヴォワ地方では山羊乳の青カビチーズのことをペルシエと呼んでいたようである。山羊乳チーズらしい香りとコクを楽しんでいると少し遅れて青カビの刺激がやってくるが、青カビの刺激は控えめでむしろ口の中に残る塩味の方が強く感じる。
6.シャウルス・フェルミエ
フランス 牛乳 白カビ
シャ(ネコ)とウルス(クマ)の2匹の動物が街の紋章だったシャウルスという小さな街で作られていたというのがその名の由来というエピソードを知っていつかは食べてみたいと思っていたチーズの1つだ。無殺菌乳で作られたフェルミエは酸味が強く感じられ少しパサパサとしたフレッシュチーズのような口当たり。ミルクの甘味も感じられ非常に食べやすい。産地の北にはシャンパーニュ、南にはシャブリがあるのでよく冷えた白ワインとともに楽しんでみたい。
7.コンテ・ド・モンターニュ・オーガニック
フランス 牛乳 セミハード・ハード
フリュイテとはどういう物なんだろうとゆっくりじっくり味わってみたが…舌も鼻もそれを表現する力も何もかも追いついてないなぁと感じる。エピセアの板の上に置かれて熟成されるコンテは、最低でも83種の風味を持つと言われているそうである。そんなにと途方に暮れるしかない。ナッツっぽい香りとミルクの香りくらいは分かるんだけど……あと81種かぁ~。
著者: へた釣り